Twitter等で「まどマギ中でのエントロピーの説明は間違っている」という噂をちらほら聞いたが、自分でアニメを見てみた感想としては、大雑把にはキュウべぇの説明でおおよそ合っていると思った。「簡単に例えると」という前置きのもとに、細かいことは言い方の問題としてキュウべぇの説明を好意的に解釈してみた。
キュウべぇの例えでは「焚き火で得られる熱エネルギーは木を育てる労力とつりあわない」と言っていたのでこの例えで考察する。
まず、木を育てる労力というのは「木を作り上げるのに必要なエネルギー」すなわち生成エンタルピー(⊿H)と考えられる。そうするとその木を燃やして得られる
ギブスの自由エネルギー(⊿G)という量は、
⊿G=⊿H-T⊿S
で与えられる。
※
この自由エネルギーというのは、化学反応(この場合は燃焼)において取り出すことのできるエネルギーである。「熱エネルギー=ギブスの自由エネルギー」としてしまうのは正しい表現ではないが、利用可能なエネルギーを論点としていることからキュウべぇの言わんとするエネルギーは自由エネルギーであろうと考えられる。
この式の左辺第2項がポイント。Tが温度で⊿Sが
エントロピー変化である。
エントロピーが何かというのをおいておいてとりあえず式を眺めると、
木を燃やして得られるエネルギー(⊿G)は木を育てるのに必要なエネルギー(⊿H)よりT⊿Sだけ小さくなる、ということがわかる。(この⊿Sというのはこの場合正)
この取り出せるエネルギーを減らしている原因がT⊿Sというエントロピーを含む項であることから、「まどか、君はエントロピーって言葉を知ってるかい。簡単に例えると、焚き火で得られる熱エネルギーは木を育てる労力とつりあわないって事さ。」というキュウべぇのセリフは、エントロピーを説明として大雑把に正しいと言える。
エントロピーの解釈としてよく「乱雑さを示すパラメータ」と言われるが、キュウべぇの説明を解釈するのにはあまりこの解釈は向いていないように思える。ネットで「キュウべぇの説明は間違っている」と主張する人の解釈を読んでみると、どうもみんなこの「乱雑さ」と概念に囚われてしまっており、熱力学的な定義dS = δq/Tからの考察がなかった。T⊿Sというエントロピーを含む
束縛エネルギーと呼ばれるものにエネルギーの一部を取られてしまうから利用できるエネルギーは減ってしまう、というのがキュウべぇの主張だろう。
余談だが、熱力学の授業で最初にエントロピーを教わったとき「金に例えると1円の価値のようなもの」として教わった。定義式が微小熱量をその場の温度で割ったものだから、お金で考えると手に入れたお金を預金額で割ったようなものとして考えられる。預金10万円の人にとっての1万円は預金100万円の人にとっての1万円より価値が高いと考えられるから、エントロピーというのは入ってきた熱量が及ぼす影響の大きさを表す指標・・・ということ。
統計学的な定義S=k
BlnWにしたがって「乱雑さ」としてエントロピーを考えるのも一つの解釈でそれは初学者にもわかりやすいが、エントロピーには他にも解釈の仕方があるんだよ、というお話。
追記
※生成エンタルピー=燃焼エンタルピーとしてしまっていたのでこの解釈は誤り。また考えなおす。